対応のある分割表
解説
McNemar検定 - 対応のある比率の比較
McNemar検定は、関連する二値変数(例えば、前後の治療効果や診断法の効果など)において、それらの間での変化や差を統計的に評価するための手法です。
検定の帰無仮説は「2つの測定間で変化の方向性に差がない」というものです。
この検定は特に、同じサンプルに対して2回異なる条件や時点での測定を行った際に、その前後の変化を調査するのに適しています。
例: 新しい診断法の評価
ある疾患に対する新規診断法Aについて、既存の診断法Bと比較して、その効果を評価する場合を想定します。 100名の患者に対する、両方の診断法の結果は以下の通りです。
方法B: 陽性 | 方法B: 陰性 | |
---|---|---|
方法A: 陽性 | 40 | 5 |
方法A: 陰性 | 10 | 45 |
このテーブルから、以下の情報を読み取ることができます
- 40人は両方の方法で陽性と診断されました。
- 45人は両方の方法で陰性と診断されました。
- 5人は方法Aで陽性、方法Bで陰性と診断されました。
- 10人は方法Aで陰性、方法Bで陽性と診断されました。
McNemar検定では、主に対角線上にないセルの値 (この例では5と10) の違いに注目します。 これらのセルは、異なる方法で異なる結果が得られたケースを表しています。 一方、対角線上のセルは、両方の方法で同じ結果 (陽性または陰性) が得られた患者の数を示しており、McNemar検定ではこの部分の値の差異には注目しません。 つまり、McNemar検定は、異なる方法によって結果が変わったケース対して行われます。
検定の前提条件
- データは対応のある (マッチした) ペアである必要があります
- 各測定値は互いに独立している必要があります
- 測定値は二値 (2カテゴリー) である必要があります
検定の実施
補正なしの場合: \[ χ^2 = \frac{(5 - 10)^2}{(5 + 10)} = \frac{25}{15} = 1.67 \]
小さいサンプルサイズで、連続性の補正(Yatesの補正)を適用する場合: \[ χ^2 = \frac{(|5 - 10| - 1)^2}{(5 + 10)} = \frac{16}{15} = 1.0667 \]
(ここでは補正値として 1 を引いていますが、0.5 を用いる場合も多いです。R の mcnemar.test に合わせてここでは 1 にしています。)
この結果はカイ二乗分布の自由度1のもとで評価されます。 ここで得られた値が有意水準 (例えば0.05) よりも小さい場合、方法Aと方法Bの間に有意な差があると結論付けることができます。
解釈
この例では、5人と10人の間には5人の差があるので、新しい診断方法Aが既存の方法Bと異なる可能性が示唆されます。 しかし、McNemar検定 (補正あり) の結果、χ2統計量: 1.0667, p値: 0.3017 となりますので、有意差はありません。
注意点
- McNemar検定は、サンプルがマッチしたペア (たとえば、同じ患者の前後の治療結果) である場合や、同一対象者に対する反復測定のデータに適用されます。
- 独立した2つのサンプル群 (例えば、異なる患者群間の比較) に対しては使用することは適切ではありません。
- 一般的に、非対角要素の合計が10以上の場合は補正なしの検定を、10未満の場合は連続性の補正を適用することが推奨されます。
- 効果の大きさを評価する場合は、オッズ比 (b/c) とその95%信頼区間も併せて報告することが推奨されます。
Bowker検定 (McNemar-Bowkerの対称検定) - 3×3以上の分割表での対称性の評価
Bowker検定は、3値以上のカテゴリーを持つ対応のあるデータに適用できる検定手法で、McNemar検定を拡張したものです。
Bowker検定は、同じ対象に対して2回以上の測定を行った際の結果が3値以上のカテゴリーを持つ場合に、これらのカテゴリー間での変化が偶然によるものかどうかを検定します。 すなわち、McNemar検定が2×2の分割表に対して用いられるのに対し、Bowker検定は3×3またはそれ以上の分割表に対して用いることができます。
検定の帰無仮説は「対称位置にあるセルの確率が等しい (変化の対称性がある)」というものです。
例: ある治療法の結果の評価
例えば、ある治療法が3つの異なる結果 (改善、不変、悪化)を生じさせる可能性がある場合、同一の患者群に対して治療前後での状態変化を3×3のテーブルで表し、治療による効果の有無を統計的に評価します。
方法B: 改善 | 方法B: 不変 | 方法B: 悪化 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
方法A: 改善 | 12 | 18 | 10 | 40 |
方法A: 不変 | 9 | 8 | 29 | 46 |
方法A: 悪化 | 8 | 13 | 10 | 31 |
合計 | 29 | 39 | 49 | 117 |
検定の前提条件
- データは対応のある (マッチした) ペアである必要があります
- 各測定値は互いに独立している必要があります
- カテゴリーは互いに排他的である必要があります (1つのケースが同時に複数のカテゴリーに属することはできません)
- カテゴリーの順序は問いません (順序尺度である必要はありません)
注意点
- 小さいサンプルサイズでは、統計的な検出力が低下する可能性があります。
- カテゴリー数が増えるほど、必要なサンプルサイズも大きくなります。
- セルの期待度数が小さい場合 (一般的に5未満)、検定の信頼性が低下する可能性があります。
Stuart-Maxwell検定 - 周辺分布の同質性の評価
Stuart-Maxwell検定は、対応のあるカテゴリカルデータにおいて、周辺分布の同質性 (marginal homogeneity) を評価するための統計的手法です。
このテストは、各評価者がそれぞれのカテゴリーをどの程度の割合で使用しているかの差を評価します。例えば、評価者Aと評価者Bで、すべてのカテゴリーの使用頻度に偏りがないかを検証します。
Bowker検定との違い
- Bowker検定: 対称性を評価 (例: 「改善→悪化」と「悪化→改善」の変化が同じ確率で起こるか)
- Stuart-Maxwell検定: 周辺分布の同質性を評価 (例: 評価者AとBでそれぞれのカテゴリーの診断割合に差があるか)
例: ある治療法の結果の評価 例えば、ある治療法の前後での状態変化を評価する場合
方法B: 改善 | 方法B: 不変 | 方法B: 悪化 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
方法A: 改善 | 12 | 18 | 10 | 40 |
方法A: 不変 | 9 | 8 | 29 | 46 |
方法A: 悪化 | 8 | 13 | 10 | 31 |
合計 | 29 | 39 | 49 | 117 |
このような場合、以下を評価できます
- 方法Aは「改善」が40例 (34.2%)、「不変」が46例 (39.3%)、「悪化」が31例 (26.5%)
- 方法Bは「改善」が29例 (24.8%)、「不変」が39例 (33.3%)、「悪化」が49例 (41.9%)
- このようなすべてのカテゴリーにおける割合の違いが統計的に有意かどうかを検定
検定の前提条件
- データは対応のある (マッチした) ペアである必要があります
- 各測定値は互いに独立している必要があります
- カテゴリーは互いに排他的である必要があります
- カテゴリーの順序は検定結果に影響しません
注意点
- 小さいサンプルサイズでは、統計的な検出力が低下する可能性があります
- カテゴリー数が増えるほど、必要なサンプルサイズも大きくなります
- セルの期待度数が小さい場合、検定の信頼性が低下する可能性があります
- 検定結果の解釈は、臨床的な文脈を考慮して行う必要があります