2群のCox比例ハザードモデルの比較試験のためのサンプルサイズの計算

このアプリケーションは、Cox比例ハザードモデルを用いて2つの群 (例: 新薬群と対照群) のハザード比を比較する臨床試験のためのサンプルサイズを計算します。

Cox比例ハザードモデルは生存時間解析において最も広く使用される手法の一つで、ハザード比(Hazard Ratio, HR)を用いて治療効果を評価します。このモデルでは、ハザード比の対数を用いて統計的推論を行うため、従来のハザード率の直接比較とは異なるアプローチを取ります。

試験の目的に応じて、以下の4つの方法から選択できます:

等価性試験 (Equality Test)

  • 目的: 2つの治療法のハザード比に差があるかどうかを検証します。
  • 帰無仮説 (H0): log(HR) = 0 (ハザード比の対数 = 0, すなわちHR = 1)
  • 対立仮説 (Ha): log(HR) ≠ 0 (ハザード比の対数 ≠ 0, すなわちHR ≠ 1)
  • 帰無仮説が棄却されれば、被験群と対照群のハザード比に差があることが示されます。

同等性試験 (Equivalence Test)

  • 目的: 2つの治療法の効果が臨床的に意味のある範囲内で同等であることを示します。
  • 帰無仮説 (H0): |log(HR)| ≥ δ (ハザード比の対数の絶対値 ≥ 同等性マージン)
  • 対立仮説 (Ha): |log(HR)| < δ (ハザード比の対数の絶対値 < 同等性マージン)
  • 帰無仮説が棄却されれば、被験群のハザード比が対照群と同等であることが示されます。

非劣性試験 (Non-Inferiority Test)

  • 目的: 被験群が対照群に比べて劣っていないこと (非劣性) を示します。
  • 帰無仮説 (H0): log(HR) ≥ δ (ハザード比の対数 ≥ 非劣性マージン)
  • 対立仮説 (Ha): log(HR) < δ (ハザード比の対数 < 非劣性マージン)
  • 帰無仮説が棄却されれば、被験群の真のハザード比が対照群に対して非劣性であることが示されます。

優越性試験 (Superiority Test)

  • 目的: 被験群が対照群に比べて優れていること (優越性) を示します。
  • 帰無仮説 (H0): log(HR) ≥ -δ (ハザード比の対数 ≥ -優越性マージン)
  • 対立仮説 (Ha): log(HR) < -δ (ハザード比の対数 < -優越性マージン)
  • 帰無仮説が棄却されれば、被験群の真のハザード比が対照群よりも低い(優れている)ことが示されます。

統計的に信頼できる結果を得るために必要なサンプルサイズを事前に計算することで、過小なサンプルサイズによる検出力不足や、過大なサンプルサイズによる不必要なリソースの浪費を避けることができます。

ハザード比について

ハザード比(HR)は、被験群のハザード率を対照群のハザード率で割った値です:

  • HR = 1: 両群のリスクが同等
  • HR < 1: 被験群のリスクが低い(被験群の治療効果が良い)
  • HR > 1: 被験群のリスクが高い(被験群の治療効果が悪い)

例えば、HR = 0.8 は被験群のハザード率が対照群の80%であることを意味し、20%のリスク減少効果があることを示します。

Cox比例ハザードモデルでは、ハザード比の対数(log(HR))を用いて統計的推論を行います。log(HR) = 0 はHR = 1を意味し、治療効果に差がないことを表します。

イベント発生確率

試験期間中にイベント(例: 死亡、再発、疾患進行)が発生する確率を指定します。

  • 0から1の間の値をとります(例: 0.3は30%のイベント発生確率)
  • 過去の研究データや文献から推定された値を使用します
  • イベント発生確率が高いほど、同じ検出力を得るために必要なサンプルサイズは小さくなります
  • 長期間の追跡が可能な試験では、イベント発生確率は高く設定されます

ハザード率と生存率について

このアプリケーションでは、生存時間解析に関する重要な概念である ハザード率 を基礎としています。生存率 とは異なりますので、間違いの無いようにしてください。

  • 生存率: ある時点までイベント(例: 死亡や再発)が起こらない確率を表します。
    • 0から1の間の値をとります(例: 0.8は80%の生存確率)。
    • 時間とともに減少していきます。
    • 直感的に理解しやすいですが、時間による変化を単純に表現できません。
  • ハザード率: ある時点までイベントが起こっていない個体が、次の瞬間にイベントを経験する瞬間的な確率を表します。
    • 0から無限大までの値をとり得ます。
    • 単位時間あたりのイベント発生率を表します(例: 年あたり0.5回のイベント発生)。
    • 時間とともに変化する可能性があり、より詳細な分析が可能です。

ハザード率が低いほど、その時点でのイベント発生リスクが低いことを意味し、結果として生存率が高くなります。このアプリケーションでは、治療効果をより正確に比較するためにハザード比を使用しています。

臨床的に意味のある差(マージン)について

新しい治療法と既存の治療法の間で、臨床的に重要と考えられる差をハザード比の対数スケールで指定します。試験タイプに応じて意味が異なります:

  • 同等性試験の場合: 両治療法の効果が同等とみなせる最大の差(正の値)。例えば、ハザード比の対数の絶対値が0.1以内の差なら同等とみなす場合、0.1を入力します。
  • 非劣性試験の場合: 新治療が許容できる程度に劣っていないとみなせる最大の差(正の値)。例えば、新薬のハザード比の対数が0.15まで大きくても許容される場合、0.15を入力します。
  • 優越性試験の場合: 新治療が明らかに優れていると判断できる最小の差(0以上の値)。通常は0に設定します。0より大きい値を設定する場合、例えば新薬のハザード比の対数が-0.2以下であれば優れていると判断する場合、0.2を入力します。

この値は、事前に医療者や専門家と協議して定められることが一般的です。対数スケールでの設定であることに注意してください。

Cox比例ハザードモデルの特徴

このアプリケーションが使用するCox比例ハザードモデルには以下の特徴があります:

  • 時間に依存しない共変量の効果を評価できます
  • ベースラインハザードを推定する必要がないため、より柔軟な分析が可能です
  • 比例ハザードの仮定が必要ですが、多くの臨床試験で適用可能です
  • ハザード比が一定であることを仮定します