2群のハザード率の比較試験のための検出力の計算

このアプリケーションは、2つの群 (例: 新薬群と対照群) のハザード率を比較する臨床試験において、事前に設定されたサンプルサイズに対する検出力 (Power) を計算します。

検出力とは、真の効果が存在する場合に、統計的検定がその効果を正しく検出できる確率のことです。言い換えると、対立仮説が真である時に帰無仮説を正しく棄却できる確率を表します。

検出力計算の重要性

臨床試験の設計段階で検出力を計算することにより、以下のことが可能になります:

  • 試験の実行可能性の評価: 既に決まっているサンプルサイズで、臨床的に意味のある効果を検出できる可能性を事前に把握できます。
  • 試験結果の解釈支援: 統計的に有意でない結果が得られた場合、それが真に効果がないためか、検出力不足のためかを判断する材料になります。
  • 研究計画の妥当性確認: 研究費や期間などの制約により決まったサンプルサイズが、研究目的に対して適切かどうかを評価できます。
  • β エラーの管理: 第2種の過誤(偽陰性)の確率(β = 1 - 検出力)を定量的に把握できます。

4つの試験タイプ

試験の目的に応じて、以下の4つの方法から選択できます:

  • 目的: 2つの治療法のハザード率に差があるかどうかを検証します。
  • 帰無仮説 (H0): λ1 = λ2 (対照群のハザード率 = 被験群のハザード率)
  • 対立仮説 (Ha): λ1 ≠ λ2 (対照群のハザード率 ≠ 被験群のハザード率)
  • 検出力は、真に差がある場合にその差を検出できる確率を表します。
  • 目的: 2つの治療法の効果が臨床的に意味のある範囲内で同等であることを示します。
  • 帰無仮説 (H0): |λ1 - λ2| ≥ δ (ハザード率の差の絶対値 ≥ 同等性マージン)
  • 対立仮説 (Ha): |λ1 - λ2| < δ (ハザード率の差の絶対値 < 同等性マージン)
  • 検出力は、真に同等である場合に同等性を証明できる確率を表します。
  • 目的: 被験群が対照群に比べて劣っていないこと (非劣性) を示します。
  • 帰無仮説 (H0): λ2 - λ1 ≤ -δ (対照群のハザード率 - 被験群のハザード率 ≤ -非劣性マージン)
  • 対立仮説 (Ha): λ2 - λ1 > -δ (対照群のハザード率 - 被験群のハザード率 > -非劣性マージン)
  • 検出力は、真に非劣性である場合に非劣性を証明できる確率を表します。
  • 目的: 被験群が対照群に比べて優れていること (優越性) を示します。
  • 帰無仮説 (H0): λ2 - λ1 ≤ δ (対照群のハザード率 - 被験群のハザード率 ≤ 優越性マージン)
  • 対立仮説 (Ha): λ2 - λ1 > δ (対照群のハザード率 - 被験群のハザード率 > 優越性マージン)
  • 検出力は、真に優越性がある場合にその優越性を検出できる確率を表します。

検出力の解釈

一般的に、検出力は以下のように解釈されます:

  • 80%以上: 一般的に受け入れられる最低限の検出力
  • 90%以上: 高い検出力として推奨される水準
  • 95%以上: 非常に高い検出力

検出力が低い場合(例:50%未満)、真の効果があっても統計的に検出できない可能性が高くなるため、試験の信頼性が損なわれます。

設定項目

このアプリケーションでは、生存時間解析に関する重要な概念である ハザード率 を使用します。生存率 とは異なりますので、間違いの無いようにしてください。

  • 生存率: ある時点までイベント(例: 死亡や再発)が起こらない確率を表します。
    • 0から1の間の値をとります(例: 0.8は80%の生存確率)。
    • 時間とともに減少していきます。
    • 直感的に理解しやすいですが、時間による変化を単純に表現できません。
  • ハザード率: ある時点までイベントが起こっていない個体が、次の瞬間にイベントを経験する瞬間的な確率を表します。
    • 0から無限大までの値をとり得ます。
    • 単位時間あたりのイベント発生率を表します(例: 年あたり0.5回のイベント発生)。
    • 時間とともに変化する可能性があり、より詳細な分析が可能です。

ハザード率が低いほど、その時点でのイベント発生リスクが低いことを意味し、結果として生存率が高くなります。このアプリケーションでは、治療効果をより正確に比較するためにハザード率を使用しています。

指数分布パラメータ(通常γで表される)は、生存時間解析における患者の試験参加(登録)パターンを制御するために使用されます。このパラメータは、患者が試験にどのようなタイミングで参加するかを模擬するのに役立ちます。

患者の登録が一様分布に従う場合: 毎月同じ数の患者が登録されるような状況では、γ ≈ 0.0001 など 0 に近い値を指定します。

患者の登録が指数分布に従う場合: 試験の初期段階で多くの患者が登録され、時間とともに登録率が減少する状況では、患者の登録が指数分布に従います。γの値が大きいほど、初期の登録率が高く、その後の減少が急になることを表します。

新薬の臨床試験で試験開始時に比較的高い登録率があり、その後緩やかに減少する場合は γ ≈ 0.5、試験開始直後に非常に高い登録率があり、その後急速に減少するなら γ ≈ 1 等の値を適用します。

注意事項:

  • 指数分布パラメータが対照群または被験群のハザード率に一致する場合は、その分散が計算できません。
  • 指数分布パラメータが0に近いほど、サンプルサイズは大きくなり、より保守的となります。

パラメータの定義について

このアプリケーションでは以下の定義を使用しています:

  • λ1: 対照群のハザード率
  • λ2: 被験群(新薬群)のハザード率

この定義は、対応するRパッケージ(TrialSize)の仕様に準拠しています。Rコードを参照する際は、この定義に注意してください。