反復測定ANOVAのサンプルサイズの計算

反復測定ANOVA (repeated measures ANOVA) は、同一被験者に対して複数の時点または条件で測定を行い、時間効果や条件効果を検定する統計手法です。このページでは、反復測定ANOVAを実施するために必要なサンプルサイズを計算できます。

反復測定ANOVAは以下のような研究デザインで使用されます。

  • 縦断研究: 同一被験者を複数の時点で測定 (例: 治療前・治療後・フォローアップ)
  • クロスオーバー試験: 被験者が複数の条件を順次体験 (例: 薬物A・薬物B・プラセボ)
  • 学習効果の測定: 複数のテストや課題での成績変化
項目 通常のANOVA 反復測定ANOVA
被験者 各群で異なる被験者 同一被験者が複数条件を体験
仮定 各群の独立性 球面性仮定 (条件間の分散の等質性)
検出力 個人差の影響大 個人差を統制できるため検出力が高い
必要サンプル数 比較的多い 比較的少ない

反復測定ANOVAでは球面性仮定 (sphericity assumption) が重要な前提となります。

球面性仮定は、「すべての条件ペア間の差得点の分散が等しい」という仮定です。

  • 満たされる場合: 各測定時点間の相関パターンが一様
  • 違反する場合: 時点が近いほど相関が高い (自然な現象)

球面性仮定が違反した場合、Greenhouse-Geisser補正係数 (ε) を用いて自由度を調整します。

  • ε = 1.0: 完全な球面性 (理想的状態)
  • ε = 1/(k-1): 最大の違反 (kは条件数)
  • 一般的な値: ε = 0.75 (軽度の違反)、ε = 0.5 (中程度の違反)

本アプリではCohen's f を効果サイズの指標として使用します。

Cohen's f の解釈

効果サイズ 解釈
小効果 f = 0.10 実用的にはわずかな効果
中効果 f = 0.25 中程度の効果 (一般的な目標)
大効果 f = 0.40 大きな効果

効果サイズの決定方法

  • 先行研究: 類似研究での効果サイズを参考
  • 実用的重要性: 臨床的・実務的に意味のある変化量
  • 予備実験: パイロット研究での効果サイズ推定

複数群 (群数 > 1) の場合、2つの主要効果を検定できます。

群内主効果

  • 検定内容: 時点 (条件) による変化
  • : 「治療前→治療後→フォローアップで有意な変化があるか」

群間主効果

  • 検定内容: 群による違い
  • : 「治療群と対照群で平均的な値に差があるか」

交互作用効果 (群×時点)

交互作用効果 (群×時点) のサンプルサイズ計算は使用する R のライブラリ (WebPower) の制限により対応していません。
交互作用効果を主目的とする場合は G*Power の使用を推奨します。

例: 単一群での縦断研究

研究目的: 新しい運動プログラムの効果検証

  • 測定時点: ベースライン、4週後、8週後 (3時点)
  • 効果サイズ: f = 0.25 (中程度の効果を期待)
  • 球面性係数: ε = 0.75 (軽度の違反を想定)
  • 検出力: 80%、有意水準5%

結果: 必要被験者数 = 191名

例: 2群比較での反復測定

研究目的: 2つの治療法の比較

  • : 治療A群 vs 治療B群
  • 測定時点: 治療前、治療後、1ヶ月後 (3時点)
  • 主要効果: 群間主効果 (治療法による違い)
  • 効果サイズ: f = 0.30
  • 球面性係数: ε = 0.8

結果: 各群127名、総被験者数254名

サンプルサイズ計算時の考慮点

  • 脱落率の考慮: 縦断研究では脱落を見込んで 10-20% 多めに設定
  • 球面性違反の程度: 保守的な見積もり (ε = 0.5-0.75) を推奨
  • 効果サイズの現実性: 過大評価を避け、先行研究に基づく妥当な値を設定

研究デザインの最適化

  • 測定時点の選択: 理論的根拠に基づく適切な間隔設定
  • ベースライン測定: 群間の初期値比較のため必須
  • 欠測データ対策: 脱落の影響を最小化する工夫

結果の解釈

  • 多重比較の調整: 事後検定では適切な多重比較補正を実施
  • 効果量の報告: p値だけでなく効果量 (η²、偏η²) も報告
  • 臨床的意義: 統計的有意性と実用的重要性の両方を考慮